今までの自分にサヨナラを


戸が開け放たれて、漂ってくる醤油ラーメンの香り。


右の窓際にはいくつかテーブルが置かれ、カウンター席は数人のおじさんが座り和気靄々とした笑い声が響く。


「醤油ラーメン、おまち!」


「おー、きたきた!」


カウンターの向こうから威勢のいい声が聞こえれば、お客さんは早々に箸を手に取る。


すごくあたたかい雰囲気――。


「ほら、さゆ入って」


一歩中に入った彼に手招きされて、私は躊躇しながらもコントローラを傾ける手に力をこめる。


そうして、微かに段差のある敷居を、電動車椅子の力でそっと越えた――。



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