今までの自分にサヨナラを
黒い大きな瞳にとらえられて、呼吸さえも忘れそうになる――。
まるで、世界から切り離されたように、音もなく二人しか存在しないみたい。
聞こえるのは桜が揺れる音と彼の深く息を吸いこむ音だけ。
「俺、昔から気になってた」
春の風が強く吹き抜ける。
「さゆのこと、好きなんだ――。だから、傍にいさせて」
桜の花弁の大群が一瞬にして宙を舞う。
二人の周りを包む鮮やかな薄紅色の嵐。
瞬きの間の夢幻――。
私は幻を目にしているようで、声も出なかった。