今までの自分にサヨナラを
何故か胸がきゅうっと苦しくなる。
だから、振り払えなかったんだ。
その真っ直ぐな瞳に射ぬかれたように――。
そう、不覚にも胸が高鳴ってしまった……。
「おーい、羽田野!行くぞー!」
すると、同じ制服の数人の男子が向こうで彼を笑顔で待っていた。
「わかった。すぐ行くよ!」
そうして、彼は軽い身のこなしで振り返り、とおる声で言葉を返す。
私とは正反対の人だ――。
爽やかで明るくて、ありのままの自分でみんなに慕われて。
別世界に住んでるんだ、この人は……。
取り残されたちっぽけな右手の、微かに残るぬくもりに、私はそう感じた。