今までの自分にサヨナラを
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でも、そんな束の間のやすらぎなど、まやかしにすぎない。
彼の前を進みリビングに入れば、お父さんは想像どおり無言で視線だけを向けていた。
「こ、こんにちは。お、お邪魔します!」
そんな中で、しっかりと制服を着こなし、二つ折りになる程に勢い良く頭を下げる彼。
声は無駄に響いて、肩に力の入りすぎた彼を見ていると、嫌でも心配になってくる。
「まあ、どうぞ……」
そして、お父さんは決して彼と目を合わせることなく、目の前の席を視線で指し示した。
「し、失礼します」
彼は声を引っ繰り返して椅子を引くけど、椅子の脚が震えて音をたてる。
私は気付かれないようにため息を吐いて、静かに彼の隣に車椅子をとめた。