今までの自分にサヨナラを


こんなに手を震わせて緊張している時まで、彼は人を気遣うんだ。


彼のお人好し加減には時々呆れそうになる。


だから、私は手をくるりと返して彼の手を握り返した。


彼が優しさで壊れないように。


だから、壊れそうな気持ちくらい、私が引き受ける。


力のない手だけれど、彼の緊張を吸い取るように力をこめれば、彼は小さく頷く。


そして、深く空気を吸う音とともに、彼の手の力が強められた。


「あの、今日は急にすみません!羽田野光と申します」


極度に緊張した彼はテーブルに額がつきそうなくらい頭を下げて、声もやっと出したようだった。


手からもいっぱい彼の想いが伝わってくる。



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