今までの自分にサヨナラを


私の瞳にうつっていた地面が普段とは違う速度で流れはじめる。


そっと顔を上げれば、近所の家の瓦屋根も、庭を彩るプランターに並ぶ花々も、幾本も過ぎる電柱も、見慣れたもののはずなのに何もかも違うんだ。


彼の速度で進む、それだけで世界は数倍鮮やかに色をまして、心がはずむ。


目線は違うかもしれないけど、今確かに私は彼と同じ世界を見ているのだと思うと勝手に心が優しくあたたかくなっていく。


見飽きた町の景色でさえ、可笑しな話だけれど愛しく思えそうだ。


この煌めく景色をできるものならずっと、見ていたい。


嫌な現実を見るくらいなら、このまま時間が止まればいいんだ――。



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