今までの自分にサヨナラを
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私たちはいつもの生い茂る桜木の下のベンチのところにいた。
まだ五月だが、最近少し蒸し暑い。
緑はすっかり青々と茂り、その大きな木陰は暑くなってきた日差しを和らげてくれるからほっとする。
既に定位置になっている私の右隣の彼の存在と、桜の葉の間から注ぐやわらかな木漏れ日が心地よい。
私は安心をして空気を吸いながら、眩しい木漏れ日を見上げていた。
「あっ、今日さゆと曲聞こうと思って、これ持ってきたんだ〜」
すると唐突に彼はそう言い、ジーンズのポケットからオレンジのウォークマンを取り出すと、得意げに歯を見せてそれを私に軽く振ってみせた。