今までの自分にサヨナラを


濡れて光るかきあげられた前髪。


肌に張りついたずぶ濡れの白いYシャツ。


どれも夕日を受けて煌めいている。


私があんなことをしたのに、彼は怒りもしないのだ。


「もうこんなことしないでくれよ~、さゆ~」


それどころか、おどけて私の髪をくしゃくしゃに撫でてくれる。


そんな彼の大きな手が、優しくて、あたたかくて、心地よい。


まるで、心を安らげる魔法みたいな手だ。


一体彼はどこまでお人好しなんだろう。


その手から愛が流れ込むたびに、私は涙が込み上げてしまいそうになる。


口を結んで、堪えるのが精一杯なほどに――。



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