泣き虫なお姫さま。
Act.0
幼なじみで友達、彼女。
…… 寒い。
外に出ると…… 冬、特有の寒さが俺を刺激する。
「樹(イツキ)ー、いってらっしゃーい」
玄関の向こうから、母さんの声が聞こえた。
うっすら道を白く染めているが…… “自転車でいけない量じゃない”
そう思い、外の駐輪場に置いてある自転車に乗って、駅に向かう。
冷たい風を切って、自転車で行くのは…… 嫌いじゃない。
「まおっ」
俺の前を、ちんたら自転車に乗っている、幼なじみ…… 木下 まお(キノシタ・マオ)がいた。
何気なく、後ろから声をかけた。
「いっくん!」
俺の声にびっくりしたのか、目を大きく見開いている。
…… つーか。
「“いっくん”は、やめろよ」
「えー、いいじゃん」
このやり取りは、俺らの間ではずっと平行線を辿っている。
「前田 樹(マエダ・イツキ)なんだから“いっくん”でいいじゃん」