ヘタレ王子とヤンキー姫
春樹は戻ってから二人に礼を言った。

二人ともなにも聞かなかった。

もしかして、あのとき樺音を止めたのは、春樹のなかにうまれつつあるもう一人の春樹なのかもしれないと、樺音は思った。

常に傍にいて見守ってあげられるわけじゃない。

今回のようなことがあったときや、あのときのように、喧嘩に巻き込まれたとき、多少の防御は、できるようになってほしいと、全員が思っていた。

けれど、それを春樹に言えばきっと嫌がるだろう。

強制すれば、またパニックになってしまう。

樺音は、一人悩んでいた。

隣で楽しそうに歌う春樹を見ながら、このままでいてほしいような、ほしくないような、複雑な思いに駈られていた。
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