会いたい

「――」

 風がガラスを揺らす音が、私を正気に戻した。
 見上げると、階段の踊り場の窓が枝とぶつかっていた。
 階段を昇ると見える突き当たりの部屋が透の部屋だった。
 やっぱりその部屋にも家具はなく、唯一透のお気にいりだったこげ茶色の木の揺り椅子とガラスのテーブルがあった。
 昨日あの部屋に入った時は気づかなかったけれど、あそこにはまだあの椅子とテーブルが埃まみれの白い布を被ってあるはずだ。
 目の前の扉の向こうに、前に見た光景が浮かぶ。
 埃だらけの床に座り込んで本を読んでいた透は、今はもう過去のことなのだ。
 私は、静かに扉を開けた。

「――」

 予想通り、幽霊はやっぱりまだそこにいた。
 この前と同じに、そこに立っていた。
 私を見て驚いたような顔をしていたが、やがてためらいがちに笑った。

「こんにちは」

 私も笑った。
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