会いたい

 私は持っていたバッグの中から、お店で買った大きなスケッチブックとマ
ジックペンを取り出した。
 そして太いマジックで、こんにちは、と書いた。
 それを見せると、幽霊は笑いながら頷いた。
 我ながらうまい手だと、私は思った。
 どちらも声が聞こえないのなら、視覚に訴えればいいのだ。
 手話という手段もあったのだが、私はそれを知らないし、幽霊も知っているとは思えなかったのでこれはやめた。

 あなた名前は? どこから来たの?

 書いたものを見せると、幽霊は黙って首を振った。

 わからないの?

 また、幽霊は首を振った。
 私を見つめる瞳は、困ったような、子供を諭すような、穏やかなものだった。

「――」

 私は、それ以上、この質問を聞いてはいけないのだと悟り、だが彼に対する興味は尽きずに、新しい質問を紙に書き込んだ。

 ここで 何をしているの?

 透けた腕が突然動いたので、私は内心びっくりした。
 幽霊の腕は真っすぐに伸ばされ、扉を指差していた。

「何?」

 幽霊は、遠い瞳をして扉の向こうを見つめていた。
 哀しそうに、見えた。

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