会いたい
思い出を語る
「――とおるはね、いろんな所を旅するのが好きだった。出かけると、二週間以上は、確実に帰ってこないの。でも、帰ってくると、一番初めに、私に「ただいま」を言いに来てくれるの。たくさんのお土産話を、聞いたわ。不思議な話も。
前にも言ったとおり、とおるの両親は結構なお金持ちな上に、すごい保険金をかけて亡くなってしまったから、とおるは、いきなりものすごいお金持ちになってしまったのよ。
それで、どうしてあちこちを放浪するようになったかっていうと、ご両親が死んでしまった時、こう思ったんですって。こんなにあっさり、人間なんて死ぬから自分もいつ死ぬかわからない。多分、自分は長生きできそうなタイプじゃないから、この金を使って、自分のしたいことして暮らそうって。
すっごくふざけてるの。
地道に働いてる人に、失礼じゃないねぇ」
私は話しながら、ペンを使って幽霊と紙での会話を繰り返していた。
幽霊は、笑いながら私の言葉を見ている。別に話さなくてもいいのだけれど、彼にはどうせ聞こえないのだからと、私は好き勝手に話していた。聞いていなくても、相手が見えている分、誰かに話しているのだと思えて、気が楽だったのだ。
私はもともと思ったことをそのまま話せるタイプではなかったから、ストレスを蓄めやすいというところもあった。
何でも話せる、といった友達は少なく、あたりさわりなく何でもこなしていたから、私が悩んでいるなどと、気づいていない人達も多いと思う。
ぎりぎりまで我慢するのは悪い癖だと、透はいつも言っていた。
透はものごとの本質を捉えるのに敏感で、いつも私が考えること、感じていることを先に知ってしまっていた。だから、私は透を初めはひどく胡散臭い奴だと、けむたがっていたのである。
何でもお兄さんに話しなさい。どんなくだらない愚痴だって、誰かに話してしまえばすっきりするから
冗談混じりの声を、まだ憶えている。