会いたい
『――それで、どうだったんだい』
「は?」
『だから、高木さんだよ』
興味津々の声。
「――別に」
『別にって、それだけなのかい?』
「いい人だわ。それだけよ」
忘れていた感覚が戻ってくる。
嫌な気分。自己嫌悪だけが残る。
「お母さんが期待してることにはならないわよ。お断わりするんだから。じゃあね」
早口に言い捨てて、私は携帯を無造作においた。何か言っている声がかすかに聞こえたが、気に止めなかった。
考えてはいけない。
そう、自分に言い聞かせた。こんな嫌な感情は捨ててしまわなければ。