ふたりの練習曲 ~Raita side~
「ん、これ? リードだよ?
あっ、体育館急ごっ!」
歩き出した彼女の横を歩きながら、俺は鸚鵡返しにきいた。
「リード?」
「うん、サックスの吹き口につけて、これで音をだすの。」
あぁ、パートはサックスなんだ。
「えっ、サックスとかの吹き口って、リコーダーのでかいのみたいな感じじゃねーの?」
「うーん、ぱっと見はそうなんだけど、このリードを震わせて音を出すから、実際はちょっと違うかな・・・」
トントンとリズム良く階段をおりながら、彼女はにっこりと振り返る。
「ふーん・・・
ところでずっとくわえてるけど、それってうまいの?」
「えっ、うーん・・・べつに美味しくはないよぉ。」
「合せの日とかに、みんなくわえてるじゃん?
だからどんな味なんだろって、ずっと気になってたんだけど、うまくないんなら何でくわえてんの?」
「くわえてるのは、リードを湿らすためだよ。
乾燥してる状態だと、良い音も出ないし、すぐに割れちゃうからねぇ。」
「割れたらどーなんの?」
「音に影響が出ちゃうし、怪我しても危ないから、新しいのに取り替えるよ。」
「えっ、それ一枚いくらぐらいすんの?」
「物にもよるけど、200円くらいかなぁ?」
ひぇー、地味にたいへんだ・・・
「んで、うまくないんなら、どんな味なの?」
どんな味か気になってしつこく食い下がる俺に、彼女は少し困った顔をしてから立ち止まり、ずっとくわえていたリードをおずおずと差し出した。
「・・・もしいやじゃなかったら、舐めてみる?」