桜舞う中で
3
ほうっと桜の木を見つめていた時だった。
頭上から聞こえてきた不思議そうな声。
その声で一気に現実に引き戻された気がした。
そんな声を出すのはどんな奴だと思い、振り返ると
そこにいたのは一人の男子生徒。
すらっと長い手足に、整った顔立ち…
一言で言えば、かっこいい人だった。
「‥新入生だよね
こんなとこに居ていいの?」
そんな人に突然話し掛けられたことよりも、その台詞に疑問を感じた。
『何でですか?』
「だって
入学式始まってるよ?」
‥‥
『えぇっ!?』
嘘…
携帯を出して時間を確認する。
今の時間は10時半。
入学式は
10時から・・・
ヤバいっっ!!
慌てて置いてあった鞄を掴むと、私は体育館に向かってダッシュした
…けど
「待って!」
その声に引き留められた。
『何ですか』
早く行かないとという思いで、少しイラッとしたけど、その人はネクタイの色から先輩だと分かっていたので無視するわけにもいかなかった。
初日から目つけられるとか嫌だしねι
そんな事を思いつつも、イライラを募らせる私の耳に届いたのは意外な言葉だった。
「落とし物」
先輩が手にしているのは、生徒証。
合格者説明会の時に渡されて、今日忘れずに持ってくるよう言われていたそれ。
『えっ‥』
思わず戸惑いの声が漏れてしまう。
私のならちゃんと鞄の中に…
‥ない。
いくら鞄の中を探しても見つからなかった。