僕のお母さん2
そう、僕は、話している相手の顔色ばかりを気にしていた。これを僕が言ったら、この人は傷ついてしまうんじゃないかとか。これを僕が言って大丈夫だろうかとか。とにかく、そういう風に考えていると、怖くて、声に出す前に心の中で消えてしまう。言わないでおこう。無かったことに。考えてなかったことにしよう。
そう思って、逃げていたのかもしれない……。松本は、僕のことをジッと見ている。僕は、松本から目を反らせなかった。やがて、松本がため息をつく。
「じゃあ、佐藤。俺の前では、ちゃんと話せ。顔色を伺うな。俺は、何でも聞くし、話してやる。それに、お前が言うんだったら、俺はそう簡単には、傷つかない。」
そのあと、松本は小さく、「お前だからな。」と呟いた気がする。小さ過ぎて聞こえなかったけど、きっとこう言ったんだ。
僕は、何だか嬉しくなって、少し調子に乗ってしまった。だって、松本ならいいんじゃないかなって、思ってしまったから。
「松本。……僕の名前は椿です。」
しまった。本当に言ってしまった。松本は、僕をみながら首をかしげている。僕は、下を向いて、失敗したな、と思った。図々しいにも、ほどがあるよな……