聖石学園~意地悪で腹黒のナイト様~
「って! 拓馬ぁ!?」

 そのメイド風衣装を着た人物を近くで確認して、あたしは思わず声を張り上げてしまった。


 注目の的になってしまったあたしはお客さんたちに謝りつつ、女装した拓馬をもう一度見た。

 元々可愛い顔立ちの拓馬はそのメイド風衣装が良く似合っている。

 不機嫌な表情が流行のツンデレっぽさを出していていい感じだ。


「あんま見るなよ……」

 恥ずかしいのか頬を染めてあたしから視線を逸らす拓馬。

 これはもろにツンデレだ。


「……可愛い……」

 思わずポツリと呟く。

 すると拓馬はさらに顔を赤くして怒鳴った。

「俺は可愛くなんかなりたくねぇんだ!」

 突然怒鳴られて怯んだあたしに、声量を落として拓馬は続ける。



「試着の時は何とか逃げられたってのに……。肝心の本番に逃げそこなっちまった」

 ちくしょー、と愚痴のように呟く拓馬を見て納得した。


 そういえば試着のとき拓馬の姿を見なかった。

 何でかなーと思っていたけど、この衣装着たくなかったからだったんだね。


 あたしは本当は女だからそこまで嫌じゃないけど、れっきとした男の拓馬はそうとう嫌なんだろう。

 真っ赤な顔は常にムスッとしている。

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