愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
(四)娘が世話を
 娘は、妻に手をあげた私が許せなかったようで、敵意にも似た感情を持ったようでございます。
やりきれない日々が続きました。
次第にお店での時間が長くなり、食事も外で済ませるようになりました。
離縁ということも頭をよぎりましたが、娘の通う私立高校のことを考えるとそれもできませんでした。
いや、本当の事を申し上げます。
世間体を気にしてのことでございます。

私どものような和菓子屋は、家庭内のゴタゴタが外に漏れますと、たちまち売り上げに響くのでございます。
考えてもみてください。
ゴタゴタを抱えた職人の作る和菓子が美味しいはずがございません。
実際、
「ご主人がお店番?以前より、味が落ちたんじゃないの。」等と、嫌みを言われたこともございます。

 一年近く続きましたでしょうか、そのような地獄の毎日が。
妻でございますか?
今は店の手伝いもしておりません。
さぁ、一日をどのように過ごしていたのか。
申し訳ありません。
又、嘘を吐いてしまいました。

実は、寝込んでおりますです。
もうかれこれ、ふた月になりますでしょうか。
いえいえ、私との諍い事が因ではありません。
心労からではございますが、以前から、時々寝込むことがございました。
唯、今回は少し状態が悪かったようではございます。

当たり前のことでしょう。
この十六年の余、私を騙し続けてきたのでございますから。
まあ正直なところ、所帯を持ってからの妻は一生懸命頑張ってくれました。
身を粉にして、という表現がピッタリくるほどでございました。
今のお店があるのも、妻の頑張りのおかげもございますでしょう。
しかしだからといって私を騙していいとは言えますまい。
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