愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 奥歯に物の挟まったような言い方でございます。
どうにも気になりますです。
「大木様、どうぞ仰ってください。
何が気になられているのですか?」
「正夫さん。あなた、ご存じないでしょ?
あのアカのことは。」
「はい。名前程度でございます。
勿論お会いしたことなど、一度も。」

「でしょうね、そうでしょうとも。
実はねえ、こんなことを言っていいものかどうか。
でもあなたは知らなくちゃね。
万が一にもあたしの想像が当たっていれば、ほんとに正夫さんがお可哀相ですからね。
あのね、妙子ちゃんですけれどね。
正夫さんに似てらっしゃる所はあるかしら?
大変失礼な言い方ですけど、まるで似てないのよね。」
 上目遣いで、それは申し訳なさそうに仰います。

「はい、それはわたくしも思います。
小夜子にそっくりで、わたくしも良かったと思っておりますです、はい。」
「そうね、そう思うのも無理はないわね。
でもね、あのアカを見知っていたならば、そうは思われないでしょうね。」
「えっ?と、ということは・・」
「いえね、あたしがね、そんな風に感じるだけのことですからね。
ほんとのところは、神様とね、それこそ小夜子さんだけがご存知なのですから。」
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