愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
「清子に婿を取って、この家を継がせればいい。」というのが、大木様のお考えのようでございます。
しかしいくら大木家と言いましても、正直あの清子さんでは・・。
ご器量は、はっきり申しまして妻の足元にも及びませんです。
まあそれより何より、足がお悪いのですよ。
びっこをひいての歩かれる姿は、好奇の目にさらされておられます。

 で必然、外出なさることもなく、日がな一日お部屋の窓辺にお座りでございます。
わたくしめの部屋が、清子さんの窓から丸見えでございまして。
夏の暑い夜には窓を開け放しておりますので、寝姿を見られてしまいます。
申又一枚で寝ておりますわたくしでございます。
初めの内こそカーテンの陰からこっそりと覗かれていた清子さんでしたが、ある日のことでございます。

 庭先でひと休みしておりましたわたくしめに
「お腹を冷やさないの?」と、声をかけてくださいました。
そしてまた
「肌が白いのね、女の人みたい。」と、悪戯っぽく笑いかけてもくださいました。
それがきっかけで、毎日のようにお話をさせて頂くようになりました。
「マーちゃん、マーちゃん。」と呼んでくださるようになったのは、程なくでございました。
あれ程に人見知りなされる清子さんが、わたくしだけとは話が弾みますです。

 多分、あたくしを男と意識されていないのでございましょう。
いえいえそれ以上に、下男のように思われているのでしょう。
小夜子お嬢様のわたくしに対する振舞いを見ておられる清子さんですから。
「小夜子さんも、ちょっとよね。」と、よく慰めのお言葉をかけてくださいましたです。
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