愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
「それは、夢なのです。
皆さん、夢は見られますかな?
見られますわな、誰しも。
しかし、しかし・・」と、急に大粒の涙をこぼされ始められました。
ざわざわとざわつく中、すくっとご老人が立ち上がります。
「わたくしのような者の為に泣いてくださる必要はない。
いや、話を聞き終えてから、思う存分に泣いて頂きたい。
夢です、夢を見るのです。」
そしてご老人がおっしゃられる、おぞましい話を話し始められたのです。

わたくしは、ここに告白いたします。
父と娘の間の愛の哀しさを、どうしても告白せずにはいられないのです。
殆どの皆様方がおぞましさを感じられることでございましょう。
が、わたくしにしてみれば、恐ろしいことながらも快楽でございました。
いや、無上の歓びと申しましても過言ではありますまい。
この二十有余年の間というもの告白の機会を伺いつつ、今日まで口をつぐんできたのでございます、はい。
しかし娘の命日である今日のこの日に、お集まりの皆様方には是非ともお聞き頂きたいと思います。

 夢、それは地獄の夢なのでございます。
あなた方は、閻魔大王の存在を信じておられますでしょうか?
いやいや、地獄そのものの存在を信じていらっしゃる方は、少ないことでございましょう。
かくいう私と致しましても信じたくはないのでございます。
このような恐ろしいものがあってなるものかと、思うのでございます。
どうもお待たせいたしました。
前置きはこの位に致しまして、その夢についてお話しましょう
。と申しましても何しろ夢のことでございます、
突飛な事柄もございます。
荒唐無稽と思われるかもしれません。
又、私の感じた恐怖感を十分にお伝えできないかもしれません。
しかしどうぞ、お汲み取りいただきたいのでございます。
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