愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
「そうなのよね。
お母さんには思い当たることがないのよね。
昔から本心を言わない人だったから。」
「それとさ、お母さんって恐妻家なの?
お父さん、いっつも遠慮気味に話すじゃない?
敬語を使ったりするじゃない?」
「恐妻家だなんて、とんでもない。
お父さんが遠慮してるだけよ。
ほら、お父さんって、奉公人だったでしょ?
その頃のクセが抜けないのよ。」
「ふーん。劣等感があるんだ。
でもそれって、ある意味怖いよね。」
「あら、どうして?」
「劣等感が高じると、支配欲が生まれるんだって。
ゴムボールをさ、抑え続けていくとね、限界点に達したらボン!って弾かれるでしょ?
それと同じなの。
人間の心も、同じなのよ。
だからね、人を責める時は気をつけなくちゃいけないんだって。」
「へえー、そうなの。誰に聞いたの?先生?」
「う、うーん。同級生のお兄さん。
すっごく頭の良い人。
良いんだけど、時々訳の分かんないことを言ったりやったりするんだって。
今ね、病院に入ってるらしいわ。」
「とに角ね、お父さんのこと、頼むわよ。
お母さん、ちょっと体調が悪いみたいでね。
お父さんは、妙子には大甘だからね。大抵のことは許してくれるから。」
「うん、任せといて。
お母さんは、しっかりと養生して。」
な、なにが、頼むわよ、ですか!
頼まれなくても、妙子はわたくしの世話をしてくれますですよ。
貞節な妻を演じるのは、いい加減にやめて貰いたいものです。
そうでしょう、皆さん。
罪滅ぼしのつもりなのでしょうかな、まったく。
それに反して、娘のなんと優しいことか。
養生してねとは、本当に心根の優しい娘でございます。
お母さんには思い当たることがないのよね。
昔から本心を言わない人だったから。」
「それとさ、お母さんって恐妻家なの?
お父さん、いっつも遠慮気味に話すじゃない?
敬語を使ったりするじゃない?」
「恐妻家だなんて、とんでもない。
お父さんが遠慮してるだけよ。
ほら、お父さんって、奉公人だったでしょ?
その頃のクセが抜けないのよ。」
「ふーん。劣等感があるんだ。
でもそれって、ある意味怖いよね。」
「あら、どうして?」
「劣等感が高じると、支配欲が生まれるんだって。
ゴムボールをさ、抑え続けていくとね、限界点に達したらボン!って弾かれるでしょ?
それと同じなの。
人間の心も、同じなのよ。
だからね、人を責める時は気をつけなくちゃいけないんだって。」
「へえー、そうなの。誰に聞いたの?先生?」
「う、うーん。同級生のお兄さん。
すっごく頭の良い人。
良いんだけど、時々訳の分かんないことを言ったりやったりするんだって。
今ね、病院に入ってるらしいわ。」
「とに角ね、お父さんのこと、頼むわよ。
お母さん、ちょっと体調が悪いみたいでね。
お父さんは、妙子には大甘だからね。大抵のことは許してくれるから。」
「うん、任せといて。
お母さんは、しっかりと養生して。」
な、なにが、頼むわよ、ですか!
頼まれなくても、妙子はわたくしの世話をしてくれますですよ。
貞節な妻を演じるのは、いい加減にやめて貰いたいものです。
そうでしょう、皆さん。
罪滅ぼしのつもりなのでしょうかな、まったく。
それに反して、娘のなんと優しいことか。
養生してねとは、本当に心根の優しい娘でございます。