死が二人を分かつまで
進藤は、翌日にまわしても差し支えのない仕事をわざわざ残業して片付け、会社の近くのファミレスで夕飯を済ませてから電車に乗った。


いわずもがなで、さとしとタイミングを合わせる為である。


今までもそうやって彼と語らう時間を作っていたのだった。


駅に着いてから、トイレに入ったり構内にある売店を見て歩いたりして時間を潰していると、狙い通り、さとしが改札口から出て来た。


「あ、進藤さん」


「やぁ。残業で遅くなってさ。君もそろそろ来る頃かな、と思って待ってたんだ」


我ながら言い訳めいた口調だな、と進藤は思った。


「そうですか。じゃあ、一緒に帰りましょう」


さとしは微笑んだあと、何気に自分の左手首に目をやり、「あ、そうか」と呟いた。


「どうしたの?」


「時間見ようと思ったんですけど、腕時計してないの思い出したんです。今までのやつ、壊れちゃって。新しいの買わなくちゃ」


「そう」


ケータイがあるのだから腕時計は別にいらないではないか、と言う者もいるが、ポケットやカバンから取り出すのに手間がかかるので、やはり腕時計の方が便利だと進藤は思っている。
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