藁半紙の原稿
実を言うと、お祭りに来たのは初めてに近い。

行ったのも本当に小さい頃に1、2回。
人込みに揉まれた記憶しかない。




赤提灯の灯る道を歩く。

手を繋ぎたいと思ったけれど、さすがにそれは遠慮した。




一通り露店を巡った後、林檎飴を買って神社の境内に腰掛けた。
チンドン屋の鼓笛が遠くに聞こえる。

露店の通りとは裏腹に神社は夜闇に沈黙を守っていた。




上空の月だけが明るい。
















…怜香さんは、きっとこんな風に霎介さんと微妙な距離を置かなくったって良い関係なのだ。

手を繋ぎたければ、彼に触れたければ、それを咎める人などいないのだろう。




そう考えると、胸の奥がにぎりしめられたように苦しくなって、急に涙が出そうになって、ごまかすように月を見つめた。


例え霎介さんの気まぐれであったにせよ、幸せじゃないか。







神社の沈黙に任せて私は月ばかり見ていた。





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