俺のこと、好きなくせに
俺のこと、好きなくせに
独特の香りに包まれた、その白の世界に、あいつはもうどれくらい囚われているだろうか。
ほんの数時間、そこで過ごす俺でさえも、もうすっかり見慣れた景色となってしまっているのだから、あいつにとってはすでに、自宅の自分の部屋よりも体に馴染んでしまっている空間かもしれない。
「よぉ、瞳」
引き戸を開けて、そこからヒョイと顔を覗かせてお決まりの挨拶を投げ掛けると、瞳はベッドの上から穏やかに微笑んだ。
「外、すっげー熱いぜー!マジで溶けるかと思った」
言いながらベッドに近づき、窓辺に置いてある折りたたみ椅子を開いて腰掛ける。
勝手知ったる何とやら。
しかもここは一人部屋だから、周りに遠慮して小声で話す必要もない。
「ごめんね、いつも」
「良いって良いって。どうせ帰り道だし。それにうかつに早く帰ると弟の面倒見させられっからさ」
俺は学生鞄をガサゴソ漁り、目当ての物を取り出した。
「ほい。これが先週分の授業のノートと、あと、担任から預かったプリント類な」
「ありがと…」
俺はそれらを傍らの棚の上に並べて置いた。
瞳の、筋肉の落ちた真っ白な腕に、それらを渡すのはとてもためらわれたから。
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