俺のこと、好きなくせに
「あら、進藤君こんにちは」


自分の不甲斐なさにいい加減苛立ちを覚え始めた頃、豪華な花が活けられた花瓶を手にした瞳の母親が、のんびりとした口調で病室に現れた。

「あ、こ、こんにちは」

「あらあら、瞳、大丈夫?」


おばさんは俺の傍まで歩み寄ると花瓶を棚の上に飾り、ゆったりとした動作でベッドに向き合うと、彼女のその背中を細い指でやさしくさすった。


この場に第三者が、しかも俺よりも瞳に近しい人物が来てくれた事で、ようやく体の緊張が解け、正しい呼吸の仕方も思い出す。


そして………。


ゆったりと動くおばさんの指先が震えているのを目の当たりにし、いたたまれず、思わず二人から視線を逸らした。


「ありがと…も…だいじょぶ…」

瞳もその苦しみからようやく解放されたようで、掠れてはいたものの、わりあいしっかりした声でおばさんに礼を述べた。


今の動きでずれてしまった帽子を、さりげなく手で直しつつ。


「あんた、慌ててしゃべろうとしたんでしょ?気管が弱ってんだから気を付けなさいよ」


言いづらい事を、何でもない事のように、おばさんはズバっと言い切った。

「す、すみません。俺が無理させちゃったから…」
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