俺のこと、好きなくせに
別に一生を左右するようなミスではなく、気分を変えてやり直せば、数10分で終わるような作業であったというのに。

しかし、その時にはもうミスがどうのこうのという問題では無くなっていたのだ。


2人とも、それまで蓄積されていた不満が一気に爆発し、すべて吐き出さなければいられない状態になっていた。


俺はすごく興奮していて……。


自分でも、何故そのタイミングでそんな事を口走ったのか、良く分からない。

だけどその時の俺にはその言葉こそが、目の前の敵を打ちのめすのに最も相応しい、魔法の呪文だと思えてならなかった。


「な~に強がってんだか。俺にはお見通しなんだからな」


我ながら小憎らしい声音だな、という自覚はあった。


そしてきっとこの上なく底意地の悪い笑顔を浮かべていたに違いない。


「な、何よ」


身構える瞳に向かって、俺は居丈高に言葉を吐き出した。


「そんな憎まれ口叩いてても、本当は俺のこと、好きなくせに」


「そうよ!」


しかし事態は思いもよらぬ方向へと転がった。


「1年の時から好きだもん!何か文句ある!?」

「へ!?」


俺は思わず素っ頓狂な声を発してしまった。


瞳の顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
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