シュアリー×シェアリー
家に戻ると、玄関先に大きなスクーターが停めてあった。不思議な顔をすると、これユキのだよと夏美が自慢げに言う。へえあいつバイクのるんだ、と感心しながら部屋に入ると雪子はいつもの場所でタバコをふかしていた。タバコのにおいに不快感を覚えながらも、先ほどの綾の泣き顔が引っ掛かっていて文句を言う気になれない。もう今日はさっさと寝よう、と早々に部屋に戻ろうと
――すると、夏美がいやに明るい声で雪子を呼ぶ。
「ユキー!春ちゃんが女の子に告白されたんだよ」
一瞬、雪子の表情が固まり視点が春樹に合わさる。やめろよと夏美に言ってもいいじゃんと聞く耳を持たない。
「その子、春ちゃんの幼馴染ですっごい可愛いの。でも春ちゃん断るんだもん、幼馴染との恋って憧れるけどなぁ。もったいない」
にこにこと笑いながら春樹に告げる夏美の目は楽しそうだ。ああ、なんてこいつは最悪な女なんだと分かっているが、自分が惚れた女はこういう女なんだというあきらめの気持ちもある。
「もったいないって…綾はそういう風にみれないんだよ」
明日撮影早いし寝る、と今にも怒り狂いそうな気持を抑えながら部屋に戻ろうとすると夏美が呼びとめる。試しに付き合ってみたらいいのに、と。
―――じゃあ、お前だって試しに俺と付き合えといわれたら付き合うのか
きっと夏美は春樹に自分をあきらめさせるためにわざとひどい言葉を投げかけているのだと分かっている。分かっているはずなのに、どうしようもない気持がわきあがり、強くこぶしを握った。小さな痛みが手のひらに伝わり、強く握りすぎたこぶしから血が流れる。表情を硬くする春樹と正反対に夏美は穏やかな笑顔で春樹を見つめている。今からでも追いかけておいでよ、そう告げられた途端何かが爆発した。