シュアリー×シェアリー
01.5:keep it in your mind
翌日、久しぶりに高校に登校した。
昨日の夏美の発言が胃の中に大きな黒い塊となって居座っているから、あの部屋に居たくなくて、でも仕事はなくて。だから普段めったに登校しない学校に足を向けたのだった。芸能クラスがある高校とはいえ、春樹が校門をくぐると黄色い声が聞こえる。こうしてきゃーきゃー騒ぐ女はたくさんいるのに、なんで夏美なんか好きになったんだとますますみじめになって、悟られないようにぐっと顎を挙げて歩いた。
いざ登校したところで、しばらく授業に出ていなかったのだ。もちろん授業についていけるわけがない。いや、事務所が勉学の環境は整えてくれているから、ついていけないのではない。つまらないだけだ。一時間目はくるくるとペンを回して過ごし、その後の授業は屋上と学食で適当に時間をつぶした。帰ればいいのに、と思うけれど。
――おっきくなったなあ、だって。
――年下はちょっとなぁ
雪子と夏美の言葉がぐるぐると頭を駆け巡る。デートDVDだって、夏美を思って撮影したのに。ただ、血縁に生れただけ。生れたのがすこし遅かっただけ。それがこんなにも足かせになるのか。もっと早く大人になりたいなんてひどく子供っぽくて、矛盾している願いだ。
こうやって、牽制をかけられることは実は初めてではない。夏美は随分前から春樹の気持に気づいていたのだ。その度に、君は恋愛対象外だよと突き放すくせにしばらくすると、冷たくした事に後悔と罪悪感を感じるのか異様にやさしくなる。だから、春樹はまだあの部屋に留まりたいのだ。そういう夏美のやさしさに漬け込みたいのだ。