夏休みのTシャツ
恭ちゃんがぼそっと言った一言は、会場の声にかき消されてあたしの耳まで届かなかった。

少し恭ちゃんの方へ顔を傾けてみる。



「だから、俺がいるから大丈夫…」

ちょっと照れ臭そうに目線を下げる恭ちゃん。


会場に着いたときも言われたけど、そのときよりも何倍も安心する。

「うん、ありがと。」


そういってあたしはいつもの“アレ”をする。

ほっぺたをつねってグルグル~と回した。
いつもより少し多めに。


恭ちゃんはそれをみて少し微笑んだ気がした。

(だいじょぶ、だいじょぶ。)


今まで練習で流した汗も、試合に負けて流した涙も、そのときタオルを差し出してくれたのは恭ちゃんだった。


もう一度手を握ってみても震えはなかった。
足はまだちょっとダメだけど、さっきよりは平気。


いよいよ名前が呼ばれて、1回戦。




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