服従の宴―契約―
朝まで男に抱かれる仕事をして風呂上がりなのかバスローブを羽織ってトースターで焼いたパンを皿にのせている母親も、ここから連れ出してあげたい。
「お客様からいただいのよ、サンベーカリーていう葉山町のパン屋さんらしいわ。葉山町て、素敵よね……」
「いつか、住もうよ……葉山町」
整備の行き届いた道、春になると花を咲かせる街路樹。レンガ作りの家から、コンクリートでできた近代的な家まで様々な家が建ち並ぶ住宅街だ。
「葉山町に?」
化粧を落とすと少し幼い母親が目を丸くした。
「母さんがホストに貢がなくなって、俺が働ける年になれば住めるよ。きっと」
きっと……確証なんてない。普通の住宅がいくらするのかなんて二人とも知らない。
だけど、香ばしいパンの香りが狭い部屋に充満すると少しだけ近づいたつもりになれる。