恋色カフェ
事務所を出て行く間際、勝沼君は私にしか見えないように、店長へしかめた顔を向けてから微笑んで見せた。
パタリ、と扉が閉まると、事務所にはいつものように静寂が広がる。
──どうしよう。
突然、店長と二人きりになってしまった。
息苦しさと恥ずかしさと気まずさで、今この空間は形成されている気がする。
私、普段はどうしていたっけ?
……そうだ。海外行きのことを切り出してみようか。
そんなことを考えていると、ライターの微かな音が部屋に響いた。
煙草を持つ骨ばった指。煙を吐き出す時の憂いを含んだ顔。
やっぱり惹きつけられて、目が離せなくなる。
こんなに煽情的に煙草を吸う人なんて、未だかつて見たことがない。