恋色カフェ
事務所を出てみれば、幸い、廊下には誰も居なかった。
この隙に帰ろう。
休憩室の前を早足で通り過ぎようとすると、また鮮明に聞こえてきた、声。
『しかし、苦労してる俺らよりも、事務所の中で楽してる高宮さんの方が待遇いいなんて、どう考えても割にあわねーよなー』
そのまま通り過ぎればよかったのに。
自分からわざわざ、傷口に塩を塗りこむようなことしなくてもよかったのに。
そう思いながらも、足が動かない。
「──お疲れ様」
休憩室側を向いていたせいで、前から来ていた気配には全く気がつかなかった。
「お、疲れさま……」
「丁度良かった。私、高宮さんに話したいことがあったの」
ちょっと待ってて、と言って、万由さんは休憩室の扉を開けた。