恋色カフェ
目を伏せると、コーヒーのカップが視界に入る。コーヒー冷めちゃうな。そんなことが頭に浮かんだのは、決して余裕があるからじゃない。
「前に“彼氏がいる”って言ったのは、嘘だった?」
「違う、嘘なんかじゃ、」
「じゃ、彼氏がいるのにあんな……」
万由さんは言い淀んで、握った手を口許に当てている。
「……万由さんに訊かれた時は、本当に彼氏がいたの。だから、嘘を言った訳じゃない」
なんとか言葉を絞り出すと、万由さんは鼻で笑った。
「なるほど。過去形、ね」
彼女はコーヒーを一口飲みこんでから、吐息を漏らす。
「……あの時、忠告したっていうのに」