恋色カフェ



「……ありがとう。家、ここだから」


階段側から二軒目の家の前で立ち止まると、彗は勝沼から手を離してそう言った。


「入るまで、見届けたいんで」

「でも……」

「じゃないと気にかかって、今夜眠れそうもないし」


さっきから、彼女を強迫しているような気がして胸が痛む。──でも、それでも。



彗は鞄を探り、鍵を取り出す。焦っているのか、酔っているせいか、鍵がなかなか鍵穴に入っていかないようだ。



程無くして差しこまれる音が聞こえ、続けてカチと開いた音が聞こえた────その瞬間。


勝沼の心も、カチ、と音を立てた。



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