恋色カフェ
私だって、こんな深夜に大声を出したくはない。そうさせようとしたのは、あなたでしょう……?
心の声は、実際に吐き出されることはなく。そんなことを考えているうち、玄関の壁際に追い詰められ、気がつけば勝沼君の腕に囲まれ、逃げ道を塞がれてしまった。
「お願いだから……」
俯きながら、勝沼君は切ない声を響かせる。
「どうし、たの……」
何を言ったらいいのかわからない。でも何か言わなくては、と口から出たのはこんな言葉だった。
勝沼君が顔を上げると、ふわりと、鼻を掠めた香り。整髪料かシャンプーなのか、知る筈のなかった香りに、動揺が増す。
彼の瞳はゆらゆらと揺れることもなく、こちらを真っ直ぐに捉えている。