恋色カフェ
「……あのさ」
店長はぼそりとそう零してから窓を閉め、灰皿にぎゅうと煙草を押しつける。
「臨時だけど、ミーティングするから。高宮さんも時間までにフロアに降りて」
「……わかりました」
構えていた心から、ふっと力が抜けた。絶対に何か言われると思っていたのに。
店長はそれだけ言うと、煙草の煙のように事務所からすっと姿を消した。
やっぱり、怒っているのだろうか。
立ち上げようと開いたパソコンを、また閉じる。何となく窓際に近づくと、そこには彼の残り香。いつもの、苦い香りだ。
シークレットの香りはしなかったから、今日はキッチンに立つのかな。
──などと、私にそんなことを思う余裕があったのは、この時までだった。