恋色カフェ
“なに、その声”
予想していたものとは違う言葉が続き、戸惑う。
いつもなら、店長は笑ってそう言う筈だ、と、勝手に頭の中で作り上げていた。
おかげで今何を言われたのか、一文字も耳に残っていない。
「内線で、土屋さん呼んで」
──耳に残らなかったのが、こっちの台詞だったらよかったのに。
仕事のことだ、とわかっていながらも、店長の口から彼女の名前を聞くと、平静でいられなくなる。
もやもやと嫌な黒いかたまりが、自分の中に湧き上がってくる。
わかりました、と何かを悟られないように事務的な返事をしてから、私はため息が零れる前に、万由さんに内線を掛けた。