恋色カフェ


手にしていた雑巾を意味も無く洗いながら勝沼君の方を向いて言うと、彼は急に真顔になった。


「彗さんだって、一人じゃないでしょ」



どういう意味で言ったのか。


勝沼君は表情を緩ませ、小さく笑みを浮かべる。動揺が滲んでいるかもしれない顔を見られたくなくて、私は自然を装い、彼から顔を背けた。


「さ、彗さんももうサボりはおしまいっすよ。俺、先に事務所行ってますから」


やっぱり、何か察してくれたんだろうか。……ううん、いくらなんでもそんな筈がない。

それでもその勝沼君の一言で、ダメスタッフから普通のスタッフに戻れそうだと思った。



──事務所に、いたくなかった。


リニューアルの計画が本格始動してからというもの、万由さんが事務所にいる、という光景が当たり前になりつつあった。


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