恋色カフェ


パニーノの注文が入り準備をしていると、森谷が勝沼に近づき、こう言った。



『今までは見逃してやっていたが、もうお前の自由にはさせない』



何のことを言っているかなんて、考えなくともわかった。

パニーノを作り終わってから他のスタッフに訊けば、森谷は彗と一緒に事務所へ行ったという。


慌てていたせいでよろめき、丁度スタッフが下げてきた客の食器の中に手をついてしまい、舌打ち。

急いで手を洗い、ペーパータオルで拭く時間を惜しみ、エプロンで手を拭きながら事務所へ向かうところで、勝沼は森谷とすれ違った。


あの男はその時、口元にニヤリと笑みを浮かべたのだ──憎らしい程の。


「くそ……っ、あいつ」

「ん? 何か言った?」

「あ……いや」


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