恋色カフェ




「──ねえ、店長。私達も食事に行きましょうよ」


場の空気を無視したように、静寂を破ったのは、万由さん。


「店長も私も、今日まで一生懸命頑張ってきたんですから、2人でお疲れさま会やったっていいと思いません?」


それでも店長はまだ、勝沼君と顔を見合わせたまま。

「聞いてます?」と問われ、店長はようやく万由さんの方に顔を向けた。


「いいですよね?」


万由さんはそう言って、妖艶に微笑んで見せる。



「……ああ」

「やった、嬉しいー」


いつもは落ち着いた態度でいることの多い彼女が、子供のように声を上げてはしゃいでいる。



私はもう振り返ることのない、白いシャツの後ろ姿を、ただ見つめていた。


──行かないで。


胸は、痛みを伴いながらそう悲鳴を上げている。



自分は、勝沼君と一緒にいたくせに。


< 395 / 575 >

この作品をシェア

pagetop