恋色カフェ
「……っ」
あっという間に滲んだ、マグカップの輪郭。
何やってるの。ゆうべ、もう泣かないって決めたでしょ。苦いコーヒーが、今度はしょっぱくなったらどうするの?
心の中でそう言い聞かせてみるものの、肝心の“自分”は聞く耳を持つ程の余裕は無く。とめどなく、涙は頬を伝っていった。
────もう手遅れ、なんだろうか。
「……煕、さん……」
なかなか呼べなかった名前を、口にしてみる。照れてなんかいないで、もっと早くそう呼んでいれば良かった。愛しい名前を、もっと呼びたかった。
マグカップをテーブルに残し、私はまたベッドにもぐりこんだ。
今日は気の済むまで泣く日にしよう。こんな日は本当に今日で最後にする。泣くだけ泣いて枯れれば、もう涙は出てこない筈だから。