恋色カフェ
本当に万由さんは、どうしてしまったというのか。
アンバーのスタッフの誰よりも、今日のリニューアルオープンを楽しみにしていただろうと思うのに。
お店の混雑状況も、素敵だね、とお客様から聞こえてきた賛美の言葉も、なに一つ、彼女は知らない。
何気なくカウンターの方に視線を振ると、勝沼君と目が合ってしまった。限りなく普通を努めて、今度は私から微笑んでみせる。
勝沼君はほっとしたように表情を緩ませ、私の方に近づいてきた。
「今日はお疲れ様、彗さん」
「みんなお疲れ様、だよ」
「そうだね。いや、マジで疲れたー」
勝沼君は肩を押さえながらぐるぐると首を回している。私はなんだか可笑しくなって吹き出してしまった。
なに、と言いながらも彼はムッとする訳でもなく、それどころか私を見てニヤニヤと笑みを浮かべている。