恋色カフェ



勝沼君が後ろ手でフロアからの扉を閉め、私達は廊下に出た。

私は振り返り、閉められた扉を見つめる。午前中そこには、あの人の姿があった。髪を掻き上げた仕草が、瞳の奥に焼き付いている。



「……俺が言いたかったのは」


声に弾かれ、私は勝沼君の方を向いた。

照れた顔はもうおさまったらしい。薄く笑みを浮かべ、こちらを真っ直ぐ見つめている。


「彗さんも一人で仕事してるんじゃないってこと」



──────あ。


ふと、いつかの流し場でのことを思い出す。あの時は意味がわからず、ただの慰めなのかと思っていた。


「店に出てるか出てないかは、関係ない。だからもう、一人で仕事してるとか言うの、無しっすよ」


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