恋色カフェ


店長は私の姿を見るなり、そう言ってカウンターの方に行ってしまった。

ただ、エプロンを渡してもらえればそれで良かったのに。そう思った刹那、パニーノの代金を払わなくてはいけないことを思い出した。



「お待たせ。エプロン、でしょ?」

「はい、さっきはありがとうございました。あの、それと」

「ああ、パニーノか。どうだった?」

「美味しかったです、とても」


正直、じっくり味わう余裕まではなかった。が、確かに味は美味しかった。



「本当はエビがあればそれを入れたかったんだけどね。取りあえずストックにある物で作っちゃったから」

「エビも美味しそう」

「でしょ。今度、ランチタイム限定で、パニーノの月替わりメニューを出そうかと思っててさ」

「試作品、だったんですか」

「グルメリポーターばりの高宮さんに、最初に感想を訊こうかと思って」


ニヤリと笑みを浮かべた店長に、からかわないで下さい、と不機嫌な声を出してやる。



「あの、いくら払えばいいですか」

「ああ、感想訊いたし、後で何かしらのアイディアをもらえればいいよ」

「いくらなんでもそれじゃ……」


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