恋色カフェ
試作品とはいえ、さすがにタダって訳にはいかない。それに、これが他のスタッフに知れ渡れば、また、高宮さんは特別扱いだ、と言われかねない。
──あんなことがあった後だと、嫌でも臆病になる。
「それなら……」
店長は何か企んだ顔で────綺麗に上がった口角に、視線が釘付けになった。
「……!」
店長から、食べ物のいい匂いがする、なんて。そんなことを思う余裕があったのは、一瞬。
私の頭を強引に引き寄せたかと思えば、店長は私の唇に自分のそれを重ねた。
「ちょっ……」
「これで、いい」
彼はしてやったり、と満足そうに笑みを浮かべ、私の頭にポンポンと手を置くと、そのままキッチンへと戻って行ってしまった。
「ちょ、……っと」
我に返り、慌てて辺りを見回す。まだ忙しい時間帯だからか、幸い、自分から見える範囲には誰も居なかった。
「また、見られたら……どうするのよ……」
唇に残る、痕跡──。
久しぶりに移された熱が、鼓動を速めていく。今、人に顔を見られたら、多分、何も言い訳出来ない。