恋色カフェ
「煕さんの父親は知っての通り、大手商社モリヤコーポレーションの社長で、うちは医療関係の専門商社なもんだから、親同士は交流会なんかで、昔からよく顔をあわせてたらしくてね。
もちろん私も煕さんのことは昔から知ってたんだけど、ある時、うちの父が酒の席で煕さんのお父様に『娘が行き遅れそうだから、煕君にもらってもらえないか』なんて言ったらしくて。その冗談みたいな話が、あっという間に現実になっちゃったの」
理英さんは困ったように笑う。
「理英さんは、それで良かったんですか……?」
「よくないわよー。煕さんにだって悪いし。でも父は『だったら相手を連れて来い』の一点張りでね。悔しいけどその時、私には父の前に連れて行ける人はいなかったから」
まるで、物語の中のことを聞いているみたいで、私は現実味のない話にどう反応すればいいのか、正直戸惑っていた。
「で、選択肢がなかった私とは違って、煕さんにはあった。……けど、彼は結婚する方を選んだの」
どうして、と訊きそうになって、ふと、昔耳にした噂を思い出した。森谷店長が理英さんを口説き落とした、と。