恋色カフェ


「よく考えれば、アンタに会えたのは都合が良かったわ」


万由さんは封筒を滑らせ、押しつけるように私の方へと近づける。


「それ、アンタから店長に渡してくれない?」


万由さんは悪びれる様子もなく、それどころか人を蔑むような笑みさえ浮かべている。

私は、無言でそれを手にした。


「じゃ、お願いね」



──受け取ったのは、了承したってことじゃない。


ビリリ、という音が、お客のいない店内に反響する。立ち上がりかけていた万由さんは目を見開き、悲鳴に近い声を上げた。

私はそれに動じることなく、半分に裂いた封筒をテーブルに置き、万由さんが座っていた方に突き返してやる。


「ちょっと、どういうこと?! 破くなんて!」


彼女はテーブルに手をついて、鬼の形相で私を睨みつけている。とてもさっきまで大泣きしていた人とは思えない。



「都合がよすぎるからよ」


私は万由さんから視線を外し、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干す。

冷静な私の様子に、我に返ったのか、万由さんは椅子にストンと腰を下ろした。


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