恋色カフェ
「私が辞めるのは、アンタにとっても良い話でしょう。退職願ぐらい、届けてくれたっていいじゃないの!」
万由さんは声を荒げる。破られた退職願を指先で触りながら、どうするのよこれ、と恨めしくそれを見つめている。
「……いつか、啖呵切ったじゃない。私に」
『私は、アンタみたいに生半可な気持ちじゃない』
万由さんは、はっきりそう言い切った。
あの時、何だか殴られたような気持ちだった。
──悔しかった。立ちはだかる壁に怯むことなく、店長に真っ直ぐに向かっていることが、羨ましかった。
「生半可な気持ちじゃなかったんでしょ? 精一杯、全力で向かっていったら、玉砕しても悔いなんか無い筈じゃないの?」
「何よ、偉そうに……」
「告白したら、自分の思った通りの答えじゃなかった。しかも姑息な手を使ったことが相手に知られていて、ショックで落ち込んで仕事休んで人に迷惑かけて……。
挙句の果てにアンバーを辞める? で、タイミングよく私が来たから、退職願渡しといて? 万由さんがやってることは、駄駄を捏ねてる子供と、何も変わりないじゃない!」